東京に行くのは年に1回か2回。そこで経験する時間は、地元での時間と全く異なる。非日常を満喫しに行っている私のような人間は、そこで日常を過ごしている人から見ると滑稽に見えるかもしれない。だけど、旅人の側がそれを気にしすぎるのは無意味だと思う。溶け込まない存在としてかの地をうろつくのが楽しいんだ。そうしていると、東京にいながらも岩手のことをすごく意識する。
今回の旅の本題(のひとつ)はSylvain Barou & Ronan Pellenのコンサートとワークショップ。Sylvainの笛のエネルギーとコントロールは、CDやインターネットの音源から感じ取った以上に圧倒的だった。
ワークショップではアイリッシュを少し、ブルトンを少し、それからフルートの演奏に関する基本をかなり丁寧に説明していただいた。Sylvainはアイリッシュとブルトンで、吹き方も装飾音も切り替えているようだ。そういう丁寧さの積み重ねが、あのダイナミックなスタイルを作り上げているかと思うと恐れ入る。
ブルターニュの音楽は、これまで漫然と聴いていたが、演奏のスタイルや曲の種類などわからないことが多く、とっつきにくく感じていた。まだわからないことだらけだが、実際に演奏してみたことで、ずっと身近に感じられるようになったのはとても良かった。
それから、ワークショップに集まっていた奏者のレベルの高いことに驚いた。勇んで参加したこちらが恥じ入るようだった。うっかり経験年数を訊いたりすると、自分はこれまで何をやっていたんだ、と考えさせられる。
もうひとつ驚いたのは、戻ってきてからフルートがすごく安定して鳴らせるようになったことだ。正直なところ、情報として教わったことはまだ十分に消化しきれていないと思う。なのになにかが変わったという感触がある。不思議なものだ。
あまり人に教わるということをしてこなかったが、もしかすると、こういう魔法があるのかもしれない。現地に足繁く通う財力も時間もないが、せめて今回のようなチャンスは逃さないようにしようと思った。