アイリッシュフルートの原型が19世紀の木製フルートだということはよく知られている。6つの指孔と8つのキーが付いたオリジナルに忠実な楽器はフル・キーと呼ばれる。ここから足部管の2つのキーを除いた6キーのフルートもそれなりにポピュラーかと思われる。私が使っているフルートはこの6キーのものだ。
アイリッシュの曲は、Dメジャー・Gメジャー・Aメジャーと、それらに平行するスケールで描かれているものがほとんどなので、現在ではキーが付属してない楽器も多く、初心者のみならずプロでも愛好している人がいる。しかし、私のような俗物はキー付きの楽器に対する憧れを拭い去ることができず、ろくに使いこなせもしないのにキー付きの楽器を買ってしまう。
近頃少しずつこれらのキーを使うようになってきて気がついたのが、6キーというデザインの意味だ。私はまだまだキー付きフルート初心者だけど、これからキー付きフルートを買うという人たちのために書き留めておこうと思う。
6キー・フルートに付属しているキーと、それぞれのキーを操作する指は以下の通りだ。
- D#/E♭ 右手小指
- ショートF 右手薬指
- ロングF 左手小指
- G#/A♭ 左手小指
- A#/B♭ 左手親指
- C 右手人差指
スタンダードなアイリッシュフルートはD管なので、これらの半音階を加えることで、12音のクロマチック・スケールの全てが演奏できるようになる。お気づきかと思うが、Fの音を出すキーだけが2つ付いている。当初はこの意味がよくわからなかった。
6つの指孔を押さえるのに使わない小指と親指は比較的自由に使えるので、キーの位置さえ把握できれば徐々に使えるようになる。一方でキーに使わない右手の親指にはフルートを保持する役割がある。
厄介なのはショートFとCのキーだ。音の流れによっては、指孔を塞いでいた指を素早くキーの上に移したり、その逆をやる必要が出てくる。Cはクロスフィンガリングで対応するとしても、ショートFを使ったFの音は、右手の薬指を使うDとE♭の音から滑らかにつなぐことがとても難しい。そこで、これらの動きに対応するため、ロングFが必要になってくるのではないか。
E♭⇄FはB♭・E♭・A♭・C#・F#のメジャースケール及び平行するスケールの中で使う。D⇄FはA♭メジャー・Dマイナー等のコード中に出現する。Dマイナーのコードを使うFメジャー・Dマイナー等の曲には、この組み合わせが登場する頻度が高いと思われる。この辺りのキーはアイリッシュのダンスチューンでも少なくない。
逆にショートFがなく、ロングFだけになってしまうとどういうことになるのかというと、同じ左手の小指を使うF⇄A♭の動きが難しくなる。この組み合わせは C#メジャー・Fマイナー等のコードに出現する。こちらの方はかなり珍しいのではないかと思うが…。
多くのメーカーは、ロングFがなくショートFだけが付属する5キーという選択肢も用意している。私も元々は半音階を全て出すには4キーあれば十分に対応できるのでは?と考えていたのだが、最後になってなんとなく6キーを選んでいたことに、今更ながら胸を撫で下ろしている。
動機はなんであれ、キー付きのフルートを買ったプレイヤーは、やがてキーレスでは対応できなかった曲に挑戦したくなる。その曲がFメジャーやDマイナーの曲である可能性はかなり高い。ここまで読んでくださった皆様、もしこれからキー付きの楽器を購入するのであれば、ロングFのキーは付けたほうがいいですよ。